[連載読物]
海外写真事情
写真美術館の歩き方
写真の真は不真面目の真
特別寄稿
vol.1 【沢田智子のニューヨーク展】
vol.2 【どーなる地方美術館
芦屋市立美術博物館ピンチ 】
vol.3 【場を持つことの重さ
    −グラーツを訪ねて】
vol.4 【筑紫拓也さんのニューヨーク】
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特別寄稿-2


どーなる地方美術館 芦屋市立美術博物館ピンチ
文:鳥原学 
 ようやく日本経済に明るさが見えた、とは小泉首相の弁。確かに株価や経済指標で見れば一時のどん底を抜けましたが、日本全体で見ると、深刻な状況はまだまだ続いているようです。なかでも、そんな状況は地方美術館の現況に色濃く現れているように思えます。

 兵庫県の芦屋市といえば、東京の田園調布とならび、関西の資産家たちが住む高級住宅地として知られていますが、文化的にも特筆すべき歴史を持っています。

 ここにある芦屋市立美術博物館は昭和初期に活躍した洋画家小出楢重や、戦後は吉原治郎を中心とした「具体美術運動」の作家たち、写真においては中山岩太やハナヤ勘兵衛が所属した「芦屋カメラ倶楽部」の貴重なコレクションを公開するなど、高く評価されてきました。

 その芦屋市立美術博物館が数年後には休館するかもしれない、という話を聞きました。その原因はやはり自治体の財政難です。芦屋市は平成24年度までに300億円以上の財源が不足する見込みで、財政再建団体におちいる可能性も高い。

そこで市は歳出削減や市有地の売却などを中心にした行政改革のプログラムを作成し、4年以内に財政再建のめどを立てる計画を発表しました。

 この行政改革プログラムのなかで、芦屋市立美術博物館については民間活力の導入、または民間への売却か休館が検討されているというわけです。

 1985年の阪神淡路大震災の影響もあり、市の財政が逼迫しているのは理解できます。幼稚園の廃止など、福祉やその他の市民サービスまで踏み込まざるをえない改革を進めるなかで、美術博物館もその見直しを迫られるのは仕方ないことかもしれません。

 しかし、この美術博物館の立地条件やその他の条件を考えると、民間への売却や委託は難しいとも思えます。また休館を考えるなら、財政状況が回復したおりには再開館する予定を組むのかどうかも不明です。さらに言えば、公共的財産である美術作品を今後どう取り扱うという、基本的な方針をまずは公表してほしいものです。

 美術館はいまこのときに必要なものでないのは確かです。そして、すべての人に必要なものでないのかもしれませんが、芦屋の精神史をアーカイヴすることを簡単に放棄していいものかどうか、市当局にはよく考えていただきたいところです。

 また、一度作ったものを簡単にやめてしまうことができるとなれば、誰が地方自治体の文化行政などを信頼するものでしょうか。この件が他の地方自治体にとって悪しき先例にならないことを祈るばかりです。


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